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空室期間短縮への近道! 暮らしをイメージさせる「ホームステージング」

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現在では、大手不動産会社や不動産仲介会社でも取り入れられている「ホームステージング」。賃貸業界においては、入居者にその部屋で暮らすイメージを湧かせ、入居者が長く住み続けたいと思えるようなしつらえをすることがホームステージングといえる。もちろん、空室期間を減らすことにもつながる。引っ越しの梱包や開梱、内覧のための片付けなど、住まいにかかわるさまざまな仕事を経験してきた日本ホームステージング協会の杉之原冨士子代表理事に、住まいや賃貸物件に対する考え方、初心者でもできるホームステージングについて聞く。(取材・文/財部寛子)

米とは違う日本独自のホームステージング

──ホームステージングという言葉は日本ではまだあまりなじみがありません。アメリカでは歴史が長いそうですね。

アメリカでは中古住宅の売買が日本よりも盛んです。中古住宅に素敵なライフスタイルをイメージさせられる家具や小物を入れることによって、より高い価格でより早く売却する。つまり、売買促進のための手法といえます。しかし、日本とアメリカでは住宅や生活の環境は異なります。アメリカで行われているホームステージングをそのまま日本に取り入れても浸透しないでしょう。そのため、私たちは日本版のホームステージングを広めていきたいと考えています。

──日本版のホームステージングとは。

日本では住まいにまつわる問題をたくさん抱えています。たとえば、居住スペースが狭い、高齢化、ゴミ屋敷など、社会的な問題も絡みあっています。そこで、アメリカのように中古住宅を販売するために部屋をきれいにしつらえるだけではなく、片付けや掃除、モノの廃棄・保管、遺品整理、インテリアといった、不動産や住まいにかかわるあらゆる問題を体系的に捉えていく。これが日本版ホームステージングになります。

──とても幅広く、さまざまな業界と関係してきそうですね。

不動産仲介業はもちろん、賃貸業、リフォーム業、ハウスクリーニング業、運送業などさまざまな業界でホームステージングを取り入れることができます。そのため、「ホームステージング」と一言で言っても、それぞれの業界で捉え方は異なってくると思います。しかし、いずれの業界においてもホームステージングを取り入れることで収益アップにもつながります。

杉之原 冨士子(すぎのはら ふじこ)/一般社団法人 日本ホームステージング協会 代表理事。1957年茨城県出身。東京家政大学卒業。専業主婦を経て39歳で運送会社に就職し、荷物の梱包や開梱、収納などのスキルを身に付ける。2011年に独立し、ホームステージングに関するサービスを提供。2013年、一般社団法人 日本ホームステージング協会を立ち上げ。主な著書に『いつ死んでも後悔しないお片づけ』(PHP研究所刊)、『片づけなきゃ親の家 片づけたい自分の家』(講談社刊)がある。PHOTO/©︎Photo Current 66 吉田 達史

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「内覧のためのお片付け」が始まり

──杉之原さんが協会を立ち上げた経緯を教えてください。

私は、もともとお引っ越しの際の荷物の梱包や開梱、収納といった仕事をしていました。とはいえ、ただ荷物をまとめるのではなく、引っ越す前に整理をして必要なものだけを新居に持っていきましょうという提案もしていました。そんななか、居住中に家を売却したいので、売れる片付けをしてほしいという依頼を受けたんです。いろいろ迷いながらも「魅せる収納」を意識してお片付けをしたところ、「早く売却ができた」とお客様にとても喜んでいただけました。これをきっかけに、「内覧のためのお片付け」というネーミングで新しいサービスを始めたんです。

杉之原さんの著書『いつ死んでも後悔しないお片づけ』(PHP研究所刊 価格:1200円+税) PHOTO/©︎Photo Current 66 吉田 達史)

──評判はどうでしたか。

不動産会社の営業の方にサービスの内容を説明したのですが、「これでは、片付けられない人に『あなた、片付けられない人だね』と言っているようなものだから使えない」と却下されました。そこで、ほかにいいキャッチコピーやネーミングはないかと、いろいろ調べ始めました。

──その結果、ホームステージングという言葉に出会ったわけですね。

そうなんです。私が考えた「内覧のためのお片付け」は、アメリカで当たり前に行われていたホームステージングだと分かりました。アメリカでは、ホームステージャーという資格を持つ多くの方が活躍しています。しかし、日本でいきなり「ホームステージング」といっても、みなさんにはなんのことだか分かりません。そこで、ホームステージングを普及するために講座を開き、資格を与え、そこから地域に広めていこうと考えました。これが日本ホームステージング協会のスタートです。

──現在、どのくらい認知されていますか。

講座には、さまざまな業種の方に参加いただいています。そして、大手不動産会社や仲介会社ではすでにホームステージングを取り入れており、中小企業にも徐々に広まっているという状況です。ホームステージャー資格者は3400名を超え、法人会員企業も51社となりました。

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約半数の部屋が2週間以内に入居付け

──賃貸業ではホームステージングをどのように取り入れることができますか。

お部屋をホームステージングすることで入居が早く決まるということはもちろんですが、入居者さんに長く住んでもらうためのホームステージングもあります。たとえば、マンションのエントランスや共用部分を常にきれいにお掃除して、小物をしつらえておく。このようにしておくだけでも、物件そのもののステータスが上がっていきます。「あそこのマンションに住んでいるの? 素敵ね」と言ってもらえるような物件にすることで、入居者さんに長く住んでいただく。これもホームステージングなんです。

──賃貸物件をホームステージングすることで、入居率が上がるといったデータはありますか。

協会では、さまざまなデータを集めた「ホームステージング白書」を公開しています。「ホームステージングしてから成約するまでの期間」についてのデータをまとめた結果、約半数が2週間以内に入居が決まっています。さらに約1カ月以内には約8割の物件が入居を決めています。

──賃貸物件を選ぶときの条件にも変化がありそうですね。

これまでは、最寄り駅から徒歩何分か、近くにスーパーや学校があるかといった利便性に重点を置いているケースも多かったと思います。しかし、ホームステージングをすることにより、このお部屋でどんな素敵な暮らしができるのかがイメージできるようになり、周辺環境の条件が少々悪くても、入居が決まっていくということも多くあります。実際に、駅からバスに乗る必要がある地域であっても、ずっと満室が続いているという物件もあります。

──今後、ホームステージングは賃貸経営においても必須となっていくのでしょうか。

現在は賃貸物件のポータルサイトが数多くあります。みなさんが賃貸物件を探すとき、まず、これらポータルサイトを見るのではないでしょうか。その際、何も飾り気のないお部屋よりも、家具や小物があるお部屋の方が目につき、その時点で選ばれる確率も高くなるはずです。ある意味、オーナーさんや管理会社が何も説明しなくても、ホームステージングした部屋が「営業をしてくれる」ようなものです。そのため、今後はポータルサイトのなかでホームステージングをしていない物件はなくなっていくと考えています。

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フォーカルポイントを意識して演出

──「ホームステージングをやってみたい」というオーナーは、何から始めればいいのでしょうか。

ホームステージングをすれば必ず結果が出ます。まずは、物件の外観、エントランスの写真をご自身で撮影してみてください。客観的に写真を見ることで、普段、気が付かないことに気付けると思います。初めて内覧に来る方の印象が良くなるような外観、エントランスにしておくことが大切です。また、廊下や階段、階段の手すりなどの共用部分、お部屋の玄関のドアやドアノブなどもきれいにしておきましょう。とにかく、まずはお掃除をすること、これがホームステージングのスタートです。

──室内はどのようにすればいいですか。

フォーカルポイントを意識しましょう。フォーカルポイントとは「目を引く」ポイントのことです。玄関を入ったところに、高低差をつけて小物をおくことで立体感を演出することができます。そして、水回りの掃除は必須。排水溝からニオイが上がってくるようなことがないようにしておきます。また、賃貸物件のホームステージングで大切なことがトイレの清潔さです。トイレは入居者さんによくチェックされるポイントだといわれています。


最初に目を引く「フォーカルポイント」が大切

──リビングはどうですか。

リビングもフォーカルポイントになるエレメンツ(小物)と家具を少しおくだけでもOKです。おしゃれな椅子ひとつ、その上にクッション、その横に小さなテーブルひとつといった感じです。ちなみに、ホームステージングする際、小物などの色は2色までにとどめておきましょう。色が氾濫すると、ばらついた感じに見えてしまいます。

大切なことは、「生活感」を出すのではなく、ここでどんなふうに暮らせるかという「イメージ」を持ってもらうことです。

──ほかに簡単にできることはありますか。

小さなポップを作って飾っておくといいと思います。季節によって違って見える窓の景色を、写真とともに紹介することもできるでしょう。あるいはどんな暮らしができるお部屋なのか、周辺にはどんな環境が整っているのか、オーナーさんだからこそ知っている情報を玄関で紹介しておくのもいいと思います。また、内覧時には昼間でも全ての部屋の照明をつけてご案内してください。明るい部屋は暖かな印象を与えることができます。

また、内覧者の数、ポータルサイトでのページビュー数、入居が決まるまでの期間などのデータをとってみてください。このようなデータは管理会社や、募集を依頼している不動産会社で確認できると思います。こういったデータをとることで結果が出ていることが明確になりますし、入居者さんへ向けたアピールにもなると思います。

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物件を愛する気持ちは入居者に伝わるもの

──とはいえ、ホームステージングには「センス」が必要な気がします。ホームステージングは難しいと感じるオーナーも多いかもしれません。

そう感じる方もいらっしゃると思いますが、ホームステージングも“慣れ”です。少しずつチャレンジしていればいずれ上手にできるようになります。


ホームステージング事例/before(上) after(下)

──ホームステージャーの資格を持つ方にホームステージングをお願いするということも可能ですか。

もちろんです。協会にご相談いただければ、ホームステージャーをご紹介することもできますし、ホームステージングのアドバイスもさせていただきます。また、協会ではホームステージャー認定資格講座「ホームステージャー2級・1級」も開講していますので、チャレンジしてみてはいかがでしょうか。

──最後に、オーナーにメッセージをお願いします。

ホームステージングは、モデルルームのようにいきなり難しいことをする必要はありません。大切なことはオーナーさんご自身が「お部屋を愛している」こと。ホームステージングをすることによって、その気持ちが入居者さんにも伝わるのです。そのためには管理会社にばかり管理を任せるのではなく、オーナーさんご自身が物件に足繁く通って様子を見たりお掃除したりしてみてください。ご自身のお部屋を大好きでいればきれいな物件を保つことができ、質のいい入居者さんが入ってきて、長く住み続けてくれるというプラスのスパイラルが生まれると思います。

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この記事を書いた人

賃貸経営・不動産・住まいのWEBマガジン『ウチコミ!タイムズ』では住まいに関する素朴な疑問点や問題点、賃貸経営お役立ち情報や不動産市況、業界情報などを発信。さらには土地や空間にまつわるアカデミックなコンテンツも。また、エンタメ、カルチャー、グルメ、ライフスタイル情報も紹介していきます。

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